32年続く、エストニアの夏
YCE(ユースキャンプ及び交換)は、ライオンズクラブ国際協会が続けている青少年交流です。若者は地元のライオンズクラブの推薦を受けて海外へ出かけ、行き先の家庭やキャンプで過ごします。エストニアのライオンズがこの交流で海外の若者を迎え始めたのは1994年のことでした。案内資料には「エストニアのライオンズの青少年交流は32年目」とあり、これまでに世界中から何百人もの若者を迎えてきたと書かれています。
流れは毎年ほぼ同じです。若者たちはまず約10日間をエストニアの家庭で過ごし、そのあとキャンプでほかの国の仲間と合流します。案内資料はこの家庭での日々を、エストニアの暮らし方を見せ、実際にやってもらう時間だと説明しています。見て回るだけでなく、家族と同じように暮らしてもらうことを大事にしている様子が伺えます。
キャンプについても、案内資料には印象的な一文があります。キャンプの暮らしの中の伝統は少しずつ変わり続けていて、参加者がこの先何年も残る何かを付け加えることができる、というものです。毎年の参加者が新しい遊びや歌、習わしを持ちこみ、それが次の年に受けつがれていく。32年続いてきたキャンプならではの考え方なのでしょう。
3つの地域が出合う、古い荘園の村
2026年のキャンプの拠点は、エストニア南部の観光農場です。エストニアのライオンズの青少年交流のページによると、場所はヴァルガ県トゥルヴァ町のターゲペラ村にあるキヴィマエ観光農場です。農場のページでは、ここをヴァルガ県とヴィリャンディ県、そして隣の国ラトビアの境目が出合うあたりと紹介しています。豊かな自然から、この一帯は「リヴォニアのスイス」とも呼ばれているそうです。
農場の建物は、かつてのターゲペラの荘園の建物を使ったもので、建てられてから190年以上がたっています。厚いれんがの壁と、斧で削った天井の梁が残る建物です。敷地ではテントを張ったり、近くを歩いたりもでき、たき火の場所もいくつかあります。キャンプの案内資料には、表紙に湖と、水面に映る古い塔の写真が使われ、中には朝の森に続く木道の写真も載っています。南エストニアの森と水辺を、キャンプの舞台として見せたかったことが伝わってきます。
キャンプで予定されていたのは、開会式と閉会式、エストニアの夜、参加者による自分の国の紹介、遠足と見学、奉仕活動、楽しいパーティー、カヌーなどです。エストニアのライオンズのページは、スポーツと自然、奉仕と文化がまじり合うキャンプだと紹介しています。国ごとの夜や、心のこもった奉仕の日、にぎやかなディスコもあると書かれていて、いちばんの目的は新しい友だちをつくり、一緒の時間を楽しむことだとしています。
高齢者施設で過ごした一日
キャンプの日々の中で、地元の新聞が伝えているのが奉仕の一日です。7月20日の月曜日、若者たちは中部の町ヴィリャンディにあるパルナの高齢者施設を訪ねました。施設のお年寄りと一緒に散歩をし、窓ふきを手伝ったと伝えられています。
同じ記事によると、この年のキャンプの参加者は11の国から来た19人でした。そして、キャンプを運営しているのはエストニアのレオだと紹介されています。レオは、ライオンズクラブの若い世代の会員の集まりです。案内資料にも、ライオンズのマークと並んでレオのマークが載っています。
参加するのは17〜21歳の若者で、迎える側にも年の近いレオの会員がいる。そう考えると、このキャンプが大人に引率される旅行というより、同じ世代どうしでつくる場に近いことが伺えます。お年寄りと歩き、窓をふくという素朴な奉仕も、若い運営者たちが自分たちの町でできることを考えて選んだのでしょう。
1人送り出したら、1人迎える
エストニアのライオンズの「よくある質問」には、参加のしかたが具体的に書かれています。若者がライオンズクラブやレオクラブの会員である必要はなく、家族が会員である必要もありません。ただし、申し込めるのはライオンズクラブの推薦を通してだけで、若者が自分で申し込むことはできません。
そして、この仕組みの中心にあるのが受け入れの決まりです。若者を1人海外へ送り出したクラブは、エストニアのキャンプに来る海外の若者を1人、家庭に迎える責任を負います。ふつうはその役目を、海外へ出かける若者の家族が引き受けます。家族が引き受けられないときは、クラブが別の家庭を探します。迎えるのは、送り出したのと同じ年か、次の年です。前の年に先に迎えておけば、次の年に自分の家の若者が参加する枠が確保される、という決まりもあります。
資料には、送り出してくれるクラブを見つけたいなら、自分の家でも海外の若者を迎える気持ちがあるほうが、クラブが見つかりやすいとも書かれています。迎える家庭は、空港からの送り迎え、食事と寝る場所、一緒に出かけたときの博物館などの入場料を受け持ちます。申し込みの際には50ユーロの申込料がかかります。
パルヌの町のライオンズクラブのページによると、エストニアからは毎年40人ほどの若者がこの交流で海外へ出かけ、エストニアのキャンプには最大25人ほどの若者が各国から集まります。このクラブ自身も、これまでに15人を送り出し、12人を迎えてきました。送り出しと受け入れの数がほぼ見合っているのは、この決まりがきちんと働いているからだと思われます。
迎える家庭への手引き
エストニアのライオンズは、迎える家庭向けの手引きも公開しています。ライオンズクラブ国際協会の手引きをもとにまとめたもので、家庭での日々を思い描ける具体的な助言が並んでいます。
若者は着く前に、「ホストファミリーのみなさんへ」という手紙を家庭に送ります。家庭はそれを受け取ったら、家族や家、趣味を紹介し、なぜ迎えることにしたのかも伝えるようすすめられています。着いた日は予定を詰めこみすぎず、まずは若者が自分の家族に無事に着いたことを知らせられるようにすること。家の決まりは若者にも同じように守ってもらい、家の手伝いをお願いしてもよいこと。特別なお客さまではなく、家族の一人として過ごしてもらうことが目標だと書かれています。
食事の習慣のちがいは早めに話し合うこと、若者が自分の国の料理をつくりたいと言ったら喜んで受け入れること、近所の同じ年ごろの若者に会わせること、家族どうしの会話でもできるだけ若者がわかる言葉を使うこと、といった助言もあります。若者のなかには、エストニアについて思いこみを持って来る人もいるとして、最初に会ったときの印象を大切にするよう呼びかけています。
エストニアのライオンズの紹介資料には、この交流は観光ではないとはっきり書かれています。旅行者には外から見た姿しか見えないけれど、交流に参加した若者はその奥にある、その国の人が本当はどう暮らしているのかを見ることができる。手引きの細かな助言は、その考えを家庭の暮らしの中で形にするためのものだと言えそうです。
このキャンプから学べること
もしあなたが高校生なら、このキャンプは17歳から参加できる行き先の一つです。キャンプの前に約10日間、エストニアの家庭で暮らします。手引きを読むと、迎える家庭は家の決まりを守ってもらい、家事も一緒にしてほしいと考えていることがわかります。着く前に出す自己紹介の手紙に、自分の家族や学校のことを書き、日本の料理を一品つくれるように練習しておくと、家庭での日々がぐっと楽しくなるはずです。キャンプでは自分の国を紹介する時間もあるので、写真や小さなお土産を用意していくとよいでしょう。
保護者の方にとって安心材料になるのは、家庭での過ごし方が手引きとして公開されていることでしょう。お酒を出してはいけないこと、若者がひとりで国内を旅行してはいけないこと、別れるときは空港などで見送ることまで決められています。一方で、交流の期間すべてについて、健康保険と賠償責任保険に入っておくことが参加の条件です。帰りの飛行機は、キャンプ最終日の午後1時より後の便にするよう求められているので、航空券を取る前に日程を確かめておくと安心です。
ライオンズクラブのメンバーとしてこのキャンプから学べるのは、送り出すことと迎えることを一つの約束にする考え方です。若者を送り出す家庭が、次は海外の若者を迎える家庭になる。そうすれば、受け入れ先の家庭を毎年いちから探す負担が軽くなり、送り出した若者の家族も、交流を迎える側から見ることができます。さらに、キャンプの運営を若い世代のレオに任せていることも参考になります。日本のクラブが海外の若者を迎えるときにも、派遣を希望する家庭に受け入れを相談したり、地元のレオクラブに企画を手伝ってもらったりする形を考えてみる価値がありそうです。
補足
- 日程、年齢、言葉、参加費、空港と帰りの便、保険、予定されていた活動は、エストニアのライオンズ(120地区)の2026年の案内資料によります。この資料は、イタリアのライオンズの青少年交流のページに掲載されているものを確かめました。
- キャンプの場所は、エストニアのライオンズの青少年交流のページによります。このページでは、場所の表示と並んで2025年の日程と参加者数(24人)が書かれています。2026年の案内資料では、キャンプ地として同じ観光農場のホームページが示されています。建物と周辺の説明は、観光農場のホームページによります。
- 参加者の数と国の数、高齢者施設の訪問、レオによる運営は、地元紙「サカラ」の2026年7月22日の記事によります。記事の配信の日付から、訪問の日を7月20日の月曜日としました。
- 参加のしかた、受け入れの決まり、申込料は、エストニアのライオンズの「よくある質問」によります。家庭への助言は、迎える家庭向けの手引きを日本語に要約したものです。毎年の派遣人数と、パルヌのクラブの送り出しと受け入れの数は、そのクラブのページによります。
- 写真は、ターゲペラ村の川をせき止めてできた湖で、奥に古い城の塔が見えます(Taagepera järv (Õhne jõgi)、撮影 Ivar Leidus、2012年7月、Wikimedia Commons、CC BY-SA 3.0 EE)。トリミングと明るさの調整をしています。
※日程や参加国、募集の有無は年によって変わります。最新の情報は、地元のライオンズクラブや地区に確認してください。
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